不動産を売却する時の売買契約や媒介契約について理解しよう

自宅や所有している家を売却したいけどいくらくらいで売れるのか?売却依頼をするのにはどうすればいいの?そんな時まず頭に浮かぶのが不動産屋さんに依頼をすることでしょう。依頼してしまえば、具体的なことは不動産屋さん任せで後は成約を待つだけ。でも本当にそれで終わりでしょうか?

家を売るということは買い手になる可能性があるということですし、どんなことに注意を払えばいいのか、具体的に見ていきましょう。

売却依頼の契約を結ぶ

まず、どこに売却を依頼するか決めることから始めます。不動産業者もさまざま、得意分野だってあります。自分が売却したい物件に強い、その地域の不動産情報に詳しいなど、売却物件の特性に合わせて業者を選ぶといいでしょう。不動産業者が決まったら、まず売却依頼の契約を結ぶことになります。売却依頼の契約は売買契約とは異なり、「私の家を売って下さいね」というものです。

標準媒介契約約款を使用する

これを媒介契約と呼びますが、この媒介契約は国土交通省が定めた標準媒介契約約款を使用することとされています。目的は不動産取引に際して、個人である当事者(消費者)を不利益から守ること。従って媒介契約を結ぶ際には、契約書に標準媒介約款である旨の記載があるか確認しましょう。この後、売却価格などの詳細について業者と詰めていくことになります。

媒介契約書に記載されること

この媒介契約書に記載される内容は売却依頼物件の詳細などの他、依頼を受ける期間や状況を報告する頻度、お互いの義務や売却が決まった際の報酬に関してなど多岐に渡ります。さて先ほど「お互いの義務」と述べましたが、売却依頼をするのに義務が発生するのか?と思った方もいるでしょう。この点を詳しく見ていきましょう。

契約には双方の義務が発生する

まず依頼を受けた不動産業者は物件を売却するために、ネットや媒体に情報を登録して買主を見つける作業に入ります。この登録先として業者のみが閲覧可能なサイト(指定流通機構)があり、最低限ここへの登録が義務付けされています。登録することで業者間の情報が、ここで共有されることになります。また売却状況に関して、業者は定期的に依頼主(売主)に報告する義務も負います。

売却を依頼した売主としては、なるべく早く、そして高く物件を売却したいと考えるのは当然です。一社に依頼したけど、他社にも依頼してみよう。知り合いのあの人に声をかけてみよう。これらは当然ではあるのですが、媒介契約の種類によっては違約金を請求される可能性があります。依頼主の義務とは、この媒介契約の形によって変わってくるのです。

媒介契約の種類と中身

媒介契約には、以下の3つの種類が存在します。

専属専任媒介契約

売却を一社だけに依頼する契約です。名前のとおり専属で専任の不動産売却サポーターのようなものですが、だからこそ双方にとって強い約束事が決められています。売却のための指定流通機構への登録期間(5日)、売却状況の報告の頻度(1週間に最低1度)。依頼主は他社への依頼は不可、自分で買主を見つけて契約することはできない、これらを違えた時は違約金を支払うことになります。

専任媒介契約

売却を一社だけに依頼する契約ですが、専属ではない分、もう少し緩めになっています。登録期間は7日、報告は2週間に最低1度、依頼主が自身で買主を見つけることは営業経費を支払うことで可能です。しかし他社への依頼は不可、違約金の対象となります。

一般媒介契約

専属でも専任でもない契約形態です。こちらは報告の義務はありませんが、依頼主の求めに応じて答える形になります。指定流通機構への登録も義務ではありません。他社での契約は可能ですが、非明示型であった場合には営業経費を支払うことになります。

この一般媒介契約には2タイプあり、依頼する不動産業者名を明示するものと明示しないものがあります。国土交通省では明示することとしていますが、依頼主の任意で選ぶことが可能です。また契約期間はいずれも3ヶ月まで、契約の更新は依頼主が書面により行うと共に、不誠実な仕事をしたなど不満がある場合は契約を解除することができます。

どの形態で依頼するかはライフスタイルや業者で決める

このように媒介契約と言っても中身が異なりますので、どの形態で依頼するのかは物件の特性や自分のライフスタイルなどを元に選ぶことになります。仕事が忙しくて売却に関して時間を割けない、早く売却したいので多く依頼したいなど状況によって選択は変わってくるものです。いずれにしても、自分が信頼できると思える不動産業者を選ぶことが大切です。

参照:国土交通省

http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000266.html

売買契約の役割や締結の目的

売却依頼を済ませ、買主が見つかったら次は売買契約へと動くことになります。契約そのものは口頭でも成立しますが、不動産取引は金額が大きく後日のトラブルを防ぐ意味からも契約書を作成することになります。書面は不動産業者が用意してくれたものを使用する他、中古住宅を売買する際には売主による告知書などが必要です。

売買契約には何が書かれるか

物件の詳細を確認する

売買契約書には物件の所在や面積などの詳細が記載されており、条文でそれらを確認していくことになります。物件を特定する基本的な部分ですので、地番や面積などに間違いがないかチェックしていきます。契約書は不動産会社が作成してくれますが、不動産のプロとはいえ人間ですから間違うこともあり得るため、念入りに確認しておきましょう。

また面積については登記簿に記載された面積で取引するのか、実際に測量した面積で取引するのかが明記されており、測量した数字と差違がある場合には清算することもあります。ただし測量や境界の立会、図面の作成や地籍の訂正のための登記には費用や時間を要するため、事前によく確認しておく必要があります。

物件代金の支払いの時期と所有権を買主へ移転する時期の確認について、これらは同時に行うことになります。境界の確認については契約までに不動産業者と現地で立会の上、確認しておきます。

税金の負担を確認する

ここで言う税金とは固定資産税や都市計画税のことですが、これらは1月1日の所有者に対して課税されることから、引き渡し後の税金について日割りで計算して清算することになります。

融資を利用する場合の内容

買主が金融機関からのローンを利用して購入する場合、ローンが認められないこともあり得ます。その場合には契約は無効になり、売主は受領していた金銭を速やかに買主に返還しなければなりません。

物件状況の告知と付帯設備引き渡し書

売主にとって重要なのが、この物件状況告知と付帯設備に関する部分です。物件状況告知書では売主が把握している建物の不具合や雨漏りなどの発生の有無、過去に行った修繕やリフォームの履歴など、細かく記載します。契約に結びつけるためにはなるべく黙っておきたい部分があるかもしれませんが、把握していることは包み隠さず記入する必要があります。契約後に告知に関する売主の不誠実が明らかになった場合、損害賠償を請求されることもあり得ますし、それが購入を決める大きな要素を占めていた場合には最悪契約の解除もあり得ます。

瑕疵担保責任との関係

この告知書については、瑕疵担保責任とも密接に関係してきます。瑕疵担保責任とは普通に注意して生活している分には把握できなかった不具合などのことで、目視での確認やチェックが難しい地中埋設管や屋根裏、床下などに見られることがあります。購入後にこれらの不具合を発見した場合、買主は修繕や補修を売主に求めることができます。売主が把握している範囲でこの不具合について告知していれば、買主はそれを承知の上で購入するわけですから瑕疵担保責任の対象とはなりません(値引き交渉はされるかもしれませんが)。

この告知書は仲介する不動産業者が売主に記入を依頼し、自らも調べることは調べて買主に書面で説明するものです。家の状況について熟知しているのは売主であり、告知義務違反が問われるのは第一義的には売主です。把握していない事柄についてはともかく、トラブルを防ぐためにも事実を記入することが重要です。売主が個人である場合の瑕疵担保責任期間は3ヶ月程度であることも承知しておく必要があります。

心理的な瑕疵も含まれる点に注意

瑕疵担保責任については、物理的な瑕疵のみではなく心理的な瑕疵も含まれることに注意が必要です。心理的な瑕疵とは、たとえば過去に自殺者がいるなどというものです。この他近隣トラブルや騒音についての状況など、購入決定に影響しそうな事柄は記入しておく方が安心です。また物件に関する図面や確認申請などの書類も全て準備しておきましょう。

付帯設備引き渡し書

売主による記入が必要なもう一つの書類が、付帯設備引き渡し書です。こちらには物件と共に買主へ引き継ぐ家具や設備などについて、細かくチェックを入れていきます。こうすることで勘違いや認識のズレを防ぎ、後々のトラブルを防ぐことにつながります。

http://www.mlit.go.jp/common/000026648.pdf

参照:物件状況等報告書記入上のご注意

手付金について

契約時に買主から売主に対して支払われる手付金については、残代金の支払い時に売買代金に組み込まれるのが一般的です。手付金の額は売買代金の5-10%程度とすることが多く、売主が業者である場合には20%を超えて受領することは認められていません。契約時に手付金を支払う意味合いについては「間違いなく契約しました」(証約手付)ということの他、以下のようなものがあります。

解約手付金について

売買の意思があって結ぶ契約ですが、何らかの理由によって契約を解約する場合の担保のような意味合いを持つ手付金です。買主の都合によって解約する場合には、手付金を放棄することで解約できます。売主の都合による解約の場合には、受領した手付金と同額を上乗せすることで解約することが可能です。

しかし解約するのにもルールがあり、売主か買主のどちらかが契約の履行に着手してしまった後は解約することはできません。「契約の履行」の範囲がどの程度まで含むのかは難しいところですが、少なくとも第三者の目から見て明らかに契約締結に向けて動いているという、具体的で客観的な事実が必要です。この履行については裁判で争われることもあり、トラブルを防ぐ意味も兼ねて契約書に解約できる期限を記載する場合もあります。

違約手付

契約を交わした後売主または買主のどちらかに債務不履行があった場合、手付金を放棄(買主)、または受領した手付金と同額を上乗せして(売主)契約を解除することになるもので、債務不履行時の損害賠償予定額的な意味合いを持っています。

なお不動産売買において特に記載がない場合は、解約手付とするのが一般的です。

天災などによって、不動産が毀損・消失した場合

契約後、売主・買主のどちらの責任でもない理由によって売買物件が消失してしまった場合はどうするのでしょうか。天災などが想定されるケースですが、消失してしまった場合は契約を解除することができます。では一部が毀損した場合はと言えば、売主は毀損部分を修復して買主に引き渡す必要があります。しかし修復するために過大な費用が発生する場合には、売主は契約を解除することができます。また買主も購入の目的が達せられない場合には、契約を解除することが可能です。消失や修復困難との理由によって解約する場合には、売主は受領済みの金銭を速やかに買主に返還しなければなりません。

規約などの継承

物件について定められた規約や条例などがある場合、当然に買主にもそれが引き継がれるものです。しかしその規約によって買主の購入目的が達せられない可能性もあり得るので、売主は事前に不動産業者に遺漏なく伝えておく必要があります。具体的には分譲地における建築協定やその他条例が該当することになります。

宅建業法の改正と売主の注意点

法規や税制などは社会情勢に応じて、随時見直され改正されていくものです。今回不動産業者に適用される宅地建物取引業法が改正され、2018年4月1日より適用されていますが、不動産の売主とも関係性が強いので内容を確認しておきましょう。

住宅のインスペクションについて説明すること

住宅のインスペクションとは、建物の内外を主に目視で検査して痛み具合や破損箇所を調査、把握することです。検査箇所は建物の基礎的な構造部分や床下、屋根外壁や傾斜の有無などで、講習を受けた建築士が行います。対象となるのは中古住宅やマンションで、インスペクションによって不透明だった中古住宅の不具合、劣化状況を客観的に把握し、買主の不安を解消して中古住宅市場の活性化に結びつくことが期待されています。このインスペクションについて、不動産業者には媒介契約を結ぶ際及び売買契約締結前に斡旋の有無、説明義務が課されることになりました。

媒介契約書を結ぶ際に、インスペクションの斡旋の有無を確認する

不動産業者は売却及び購入のどちらの依頼に対しても、インスペクションを行う事業者を斡旋できるか否かを明記すること、依頼に応じて斡旋することが義務付けられました。インスペクションに要する費用は5-10万円程度で、売主は売却に際してインスペクションを行うかどうかの判断を下す必要があります。費用は抑えたいけどインスペクションを行うことで売却が早まる可能性があるのなら、というところでしょうか。

インスペクションを行うことによる売主にとってのメリットは、中古物件を購入する買主の不安を払拭できること。「インスペクション済み物件」であることをアピールすることで、売買に有利になる可能性はあります。また不具合や破損箇所については検査で明記されることになり、これらは瑕疵担保責任の対象外となります。

買主にとってのメリットは、先に述べたように購入しようとする物件についての第三者目線による客観的な検査結果が得られることでしょう。決して安くはない買い物ですから、安心して住める物件なのか、どこに手を入れる必要があるのかなど、事前に把握しておけることはとても重要です。費用がかかったとしても居住後に予想外の出費を強いられる事態を避け、今後のリフォームの目安にすることもできます。

重要事項説明書にインスペクションの有無を記載、内容を説明する義務がある

更にインスペクションを行った場合には重要事項説明書に記載し、買主に説明することが義務付けられました。重要事項説明書とは不動産取引に際し、業者が契約前に買主へ書面及び口頭によって物件の詳細、規制や注意点を説明することが義務付けられているもので、説明するのは宅地建物取引士のみとされています。この説明にインスペクションの有無と内容を記載し、併せて説明することとされました。また確認申請関係の書類や図面、増改築時の書類や図面などの書類の有無についても説明が必要となりました。

契約時に売主及び買主にインスペクション結果を開示すること

住宅のインスペクションを行った場合、その結果を売主及び買主へ開示し、物件の状況について情報を共有しておくこととされました。この結果住宅の状況について認識の差が少なくなり、売買後のトラブルを防ぐ効果が期待されます。内容については契約書に記載されることになります。

参照:国土交通省 改正宅地建物取引業の施行について

http://www.mlit.go.jp/common/001201151.pdf

売主として法改正に対処できること

では今回の法改正を踏まえ、売主としてできることはどのようなことでしょうか。今までは媒介契約を結んだ後は不動産業者にお任せしておけばいいだけでしたが、今後は若干責任が重くなる可能性があります。売りたい物件の状況について今までは売主の告知書に依っていたものが、第三者の視線が入ることでより客観的で冷静な評価が下されることになるからです。

またインスペクションそのものが義務化されたわけではありませんが、改正業法が浸透していくにつれて売買物件の差別化が進んでいく可能性もあります。インスペクションを行うのは売主でも買主でも良いのですが、「インスペクション済み」を打ち出すためには売主がインスペクションを行う必要があり、その分費用がかかります。更にインスペクションの結果次第では物件価格の見直しを余儀なくされることがあるかもしれません。

売主の行うインスペクションのみでは不十分だと買主が判断した場合には、買主が自らインスペクションを行うこともあり得ます。タイミングとしては契約前になるのでしょうが、結果によっては契約に至らないケースが出てくる可能性もありますし、場合によっては値引きなどの価格交渉になる可能性も念頭に置いておく必要があります。

今回の法改正の問題点とされるもの

今回の業法改正によって中古住宅市場の活性化が期待されているわけですが、疑問視されていることもあります。まずインスペクション結果をどこまで信じられるのかということがあります。今回の改正によって実際の調査にあたるのは国家資格を持つ建築士(既存住宅状況調査技術士)ですが、目視による調査でどこまで正確な診断が可能なのかという問題があります。外壁のヒビや木部の損傷など、目視による検査でもかなりのことが把握できます。しかし目視できない部分、不可能な部分があることは承知しておく必要があります。

また重要事項の説明に際して不動産業者がインスペクションの結果を説明することになりますが、不動産業者は住宅について熟知しているわけではないことを承知しておく必要があります。買主が住宅の不具合箇所や修復についてより専門的なことを知りたいと思っても、十分に応えられるのか疑問が残ります。

更に誰がインスペクションを依頼するのかが不透明であることが挙げられます。現時点において売主及び不動産業者がインスペクションを行う可能性は高いと言えるでしょうが、本来はその物件を購入して住みたいと考える買主がインスペクションを行うことがベストなのではないでしょうか。買主としても、売りたい側が実施したインスペクション結果を100%信頼できるのかという疑問が残ります。

ちなみにアメリカではインスペクションを行うのは買主依頼によることが多く、事業主体も業界から独立した存在です。売主・買主のどちらに依るのでもなく、第三者として中立的な立場から検査を行うためには大切なポイントとなってくるでしょう。そうすることで不動産業界としての透明化が進行し、より不動産売買が活性化していくことが期待されます。

 

いずれにしても今回改正された宅建業法によって、中古住宅市場の透明性が増し、安心して取引できるようになることが望まれます。国策として施行するということは国も同市場の拡大と安全な取引を志向しているという証であり、少子高齢化や資源の有限性という背景を考えてもこうした方向性は変わることはないでしょう。諸外国に比べると流通が少ないといわれる日本の中古住宅市場がどのように変わっていくのか、2018年がその分水嶺になるかもしれません。

まとめ

土地や建物の取引にはさまざまな法律や法規制が関わり、金額も小さくはないことから不動産業者に丸投げしがちです。新築の場合にはメーカーがいるのでそれで済むかもしれませんが、中古住宅の場合は売主が当事者となります。万が一の場合には売主が責任を問われることになるという事実を踏まえた上で、不動産取引にあたることが重要であり、今後もこうした流れはより強くなっていくことでしょう。