不動産譲渡税は不動産の譲渡にかかる税金の総称である
不動産譲渡税とは、不動産の売却などによって得た利益にかかる税金の総称であり、正確には不動産譲渡税という名前の税金は存在しません。
不動産譲渡税は正確には所得税と住民税、そして復興特別所得税に分かれています。不動産の売却金額から手数料や控除額を引いた額が不動産譲渡税の対象です。
注意が必要なのは、不動産譲渡税がかかる課税所得は不動産の売却価格そのものではないということです。売却金額が購入金額を下回って損をした場合は不動産譲渡税はかかりませんし、特別控除を受けることで所得額を減らすこともできます。
不動産譲渡税が課せられる譲渡所得とは?
譲渡所得とは、不動産のみならず貴金属や株式など価値がある資産を売却して得られた利益を意味します。より正確には売却によって得た金額そのものではなく、そこから購入金額に加えて各種の手数料や控除を差し引いて残った課税対象となる利益です。
一方、職場から受け取る給料などによる所得は給与所得と呼び、譲渡所得とは税制上も区別されます。給与所得も給料そのものではなく、税金や社会保険料などが控除された金額です。不動産の売却に置き換えると、不動産譲渡税がかかるのは「手取り金額」であると考えればわかりやすくなります。
国に納める所得税と復興特別所得税
不動産譲渡税のうち、国に納める税金が所得税と復興特別所得税です。復興特別所得税は東日本大震災からの復興事業に使われる税金であり、2037年12月31日までかかります。不動産の所有期間が5年超の場合は、譲渡所得の15%が所得税、0.315%が復興特別所得税となります。
不動産譲渡税は給与所得とは別の方式で計算される分離課税のため、基本的には損益通算できません。また、正社員やパートなどの給与所得者でも、税務署で確定申告する必要があります。
自治体に納める住民税
住民税は都道府県・市町村のそれぞれに納付する税金であり、不動産譲渡税でも同様です。所有期間5年超の不動産に対しては、譲渡所得の5%の住民税が課せられます。また、あまり意識する必要はありませんが、所得税が当年の所得に課税されるのに対し、住民税は前年の所得にかかる税金です。
不動産譲渡税として所得税の確定申告をすれば同時に住民税も申告できるため、別途手続きを行う必要はありません。
不動産譲渡税の計算方法
具体的な不動産譲渡税の計算方法を解説します。まず、不動産譲渡税は不動産の売却金額自体ではなく、購入金額や手数料、控除を引いた金額に対し課せられます。また、不動産を所有する期間が5年以下なら税率が高く、5年超となれば低くなります。
また、3,000万円特別控除、10年超所有軽減税率控除、マイホームの買い替え特例などさまざまな税負担軽減策が講じられており、実際に不動産譲渡税が発生するケースはあまり多くありません。投資用不動産を売却する際や人気エリアのマイホームを手放す際は、不動産譲渡税がかかることがあります。
不動産譲渡税は収入から支出を引いた金額に課せられる
不動産譲渡税の対象となる所得額は「収入から支出を引いた額」であり、計算式は以下の通りです。
所得額=売却価格−(購入価格+費用)−特別控除額
売却価格とは、実際に不動産を売却した価格のことです。例として10,000万円(1億円)とします。購入価格も文字通り不動産購入時の価格であり、極端な例ですが5,000万円としましょう。売買時には不動産会社への仲介手数料などの費用がかかり、売買金額の3.3%とすると約500万円になります。
この例では「売却価格10,000万円−(購入価格5,000万円+費用500万円)=4,500万円」となりますが、マイホーム用不動産ならば売却時に3,000万円の特別控除を受けられるため、最終的に不動産譲渡税の対象になるのは「1,500万円」です。なお、実際には建物の減価償却費が発生します。
所有期間5年超かどうかで長期譲渡所得・短期譲渡所得に分かれる
不動産売却による所得額に課される不動産譲渡税は、所有期間が5年超なら税率が低い長期譲渡所得、5年以下なら高い短期譲渡所得となります。短期譲渡所得の税率が高いのは、バブル期に投機目的の短期間不動産売買を抑制する目的で導入されたためです。
具体的な税率は、長期譲渡所得が所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%、短期譲渡所得が所得税30%、復興特別所得税0.63%、住民税9%で合計39.63%です。また、居住用で10年超所有する不動産は軽減税率の特例を受けられます。
譲渡益が出た際の特別控除
不動産売却で譲渡益が出た場合は、特別控除により不動産譲渡税の課税額を減らせます。具体的には「3,000万円特別控除」が長期譲渡所得・短期譲渡所得のいずれに該当する場合も適用され、さらに所有期間が10年を超える不動産は控除後の所得に「10年超所有軽減税率」が重複適用され、6,000万円までの譲渡所得の税率が所得税10%、住民税4%に減額されます。
厳密には控除ではありませんが、2021年12月31日までは「特定居住用財産の買換え特例」の適用を受けられます。土地・家屋の所有期間が10年超のマイホームを売却して新たに居住用住宅を購入した際は、売却益にかかる不動産譲渡税の納付を次回のマイホーム売却時に繰り延べられます。ただし、控除との併用はできません。
譲渡益の3,000万円特別控除と住宅ローン控除は併用できない
マイホーム売却と同時に新たなマイホームを購入する場合は、売却物件にかかる不動産譲渡税の3,000万円特別控除と、購入物件の住宅ローン控除のいずれかを選択できます。どちらがお得かはケースにより異なりますし、併用は不可能なため注意してください。
住宅ローン控除とは、不動産購入から10年間、年度末のローン残高の1%分が所得税から控除される制度です。たとえば初年度末の残高が2,000万円、10年度末が1,500万円ならば、10年間で約175万円が控除されます。
同一ケースで仮に不動産譲渡税の率が合計20%とすると、3,000万円特別控除適用前の譲渡所得が875万円以下ならば、住宅ローン控除を選んだほうがお得です。
譲渡損が発生しても所得控除を受けられる!
ここまでの例では不動産の譲渡益がある場合を想定していますが、仮に譲渡損が発生しても所得控除を受けられるケースがあります。家屋・土地ともに5年以上所有した居住用不動産を、住まなくなってから3年経過後の年末までに売却すれば、損失額を所得税・住民税から3年間控除できます。
住宅ローン残高がある場合は「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」、ローンがなく売却と同時に新たな居住用不動産を購入すれば「居住用財産買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」を受けられます。なお、譲渡期限は2021年12月31日であり、控除適用には確定申告が必要です。
不動産譲渡税の納付方法
不動産譲渡税は源泉徴収されないため、納税義務が発生した場合は確定申告を行わなければなりません。譲渡損の所得控除を受ける際も同様です。また、不動産会社や司法書士が手続きしてくれる場合が多いですが、売買契約時には印紙税が、引渡し時には登録免許税が発生します。
確定申告が必要なのは不動産譲渡税のうち所得税であり、不動産を売却した翌年の2月16日から3月15日に本人が行います。確定申告すれば住民税を別途申告する必要はなくなりますが、納付は所得税と別々に行うので注意しましょう。
不動産譲渡税は分離課税される
不動産譲渡税は基本的に給与所得・事業所得などと分離課税されます。そのため、譲渡損の所得控除という例外を除けば、数字だけ見れば他の損失を不動産譲渡益で相殺できるとしても不動産譲渡税を減額することはできません。
たとえば個人事業を営む人がある年に1,000万円の損失を出し、同じ年に不動産譲渡により控除後の金額で1,000万円の譲渡益を得たとします。分離課税のためともに1,000万円の事業損失と不動産譲渡益は相殺できず、1,000万円の譲渡益に対する不動産譲渡税の納付が必要です。
特例適用のために提出が必要な書類
不動産譲渡税の特別控除を受けるためには、譲渡益・譲渡損のいずれが発生しても確定申告時に別途書類を提出する必要があります。3,000万円特別控除は書類がなくても適用可能ですが、売却したマイホームの登記事項証明書の原本は全ての控除で求められます。
譲渡益の買換え特例には売却不動産の売買契約書の写し、購入不動産の登記事項証明書原本と、建築後25年以上の物件ならば耐震基準適合証明書も必要です。
譲渡損が出た場合は、「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」には購入不動産の登記事項証明書原本と新たな住宅ローン残高証明書が、「居住用財産買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」ならば売却した不動産に残っている住宅ローンの残高証明書が必要です。
納税のタイミングは数回に分かれている
不動産譲渡税の納付時期は、所得税・復興特別所得税が確定申告と同時期で売却翌年の2月16日から3月15日の間です。金額が小さければ税務署で確定申告に合わせて現金で納税することが一般的ですが、クレジットカードやインターネットバンキングによる納税も可能です。
住民税の納付書は5月頃に市区町村役場から送付されます。6月、9月、10月、翌年2月の末日までに4回に分けて支払うため各回の金額は小さくなりますが、納付期限を忘れないように注意してください。
不動産譲渡税への理解を深めて正しく納税しよう
不動産の譲渡益が対象となる不動産譲渡税は、各種の控除を使うことで減額が可能です。譲渡損がある場合でも所得税の控除を受けられるため、確定申告が必要になります。不動産譲渡税と控除は一見すると制度が複雑ですが、自分が対象となる制度さえ理解すれば決して難しくありません。
不動産の売買は人生で数度の大きなイベントですから、正しく納税するためにも確定申告を忘れずに行いましょう。